『ジョゼと虎と魚たち』感想 ユナイテッド・シネマとしまえん 2021/01/07

宮台真司がおすすめしていた「ジョゼと虎と魚たち」を見てきた。

 

恋愛もののアニメ映画だが、単なる若者の恋愛作品を超えた文脈が表現されていて本当に見てよかった。

 

主人公である鈴川恒夫が坂の上から猛スピードで走ってくる車椅子の女性「ジョゼ」と激突するところから物語は始まる。その後ジョゼの家に行くと、ジョゼのおばあちゃんからあるバイトを依頼される。それは「ジョゼのお願いをなんでも聞くこと」ただし家の外には出てはいけないという条件つきだった。ジョゼのおばあちゃんは厳しくジョゼを外に出すことは許さない。家の外には「虎」がたくさんいて危険だと小さい頃からジョゼに教えていたようだ。虎とは、自分のことしか考えず他人の気持ちを考えない人のこと。ジョゼは外の世界を知らない。外とは文字通り家の外のことで、映画館にも行ったことがないし、海の水がしょっぱいことは頭では知っているが実際に舐めたことはないので体では理解していない。そんなジョゼは外の世界が知りたいので恒夫に外に連れてって欲しいとお願いする。ジョゼは恒夫と共に映画館で映画を見たり、買い物をしたり、海に行き海の水を実際に舐めることで本当にしょっぱいことを体感する。

 

めも

・恒夫のバイト先の同僚の女の子「二ノ宮舞」も恒夫に想いを寄せていてジョゼとぶつかり合う場面がある。舞は彼の手の体温や、彼の好きなものなど恒夫に関する様々なことを知ってるとジョゼにぶつけるが、ジョゼは私は恒夫の夢や本当にやりたいことを理解しているしそれを応援すると切り返す。舞は恒夫の表面的なところしか見ていず、本心では恒夫の夢も応援していない。それに対し、ジョゼは恒夫と会ってまだ時間を浅く、思い出は少ないものの恒夫の内面の深いところをよく理解しているし、心の底から応援している。長い時間を過ごしたが浅い理解で自分のことしか考えていない舞と短い時間だが深く理解し恒夫のことを思いやるジョゼという対比。

 

・ジョゼと舞は会った当初からそりが合わないが、恒夫が少しだけ歩けるようになった場面で二人は繋がり合う。

 

・ジョゼが初めて街へ出かける場面で、駅で切符の買い方がわからないとき隣にいた女性に聞こうとしたが無視されてしまったり(もしかしたら聞こえなかっただけかもしれないが)、ジョゼが駅で一人で困っている時男性にぶつかられるシーンがある。無視した女性やぶつかって謝らなかった男性などのことをジョゼやおばあちゃんは「虎を」読んでいる。これは実際の日本社会で起きている、他人を思いやれない、関心のない人を表現している。

 

・おばあちゃんはジョゼに外に出るなと厳しくいう。だが、ジョゼが恒夫との外の世界での様々な経験を通して、外には怖いことだけではないことを知る。それをおばあちゃんにぶつける。おばあちゃんは驚き、怒るどころかげらげら笑う。ジョゼは成長し大人になったということ。その成長したジョゼのことをおばあちゃんは道頓堀のグリコ人形のポーズになぞらえて「今にも走り出しそう」と表現する。

 

ボンズ制作のアニメだが、映像がとても綺麗だった。ボンズというとアクション作画に定評のある制作会社というイメージだが、恋愛青春映画をこのクオリティで作ってきたのには驚いた。感覚としては京アニの「響け!ユーフォニアム」を連想した。

 

とにかく見てよかった。心のなかの辛いものが溶かされ、気持ちが癒される、そんな映画だった。